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○古代史研究会第2回春季研究集会


空間をかたちづくる碑文
――ギリシア語碑文からみる都市空間のあり方に関する一考察――

                                増永 理考(京都大学)

 今日の碑文を用いた研究では、テクストとしての史料的価値のみならず、文字が刻まれたモニュメントとしての重要性にしばしば目が向けられる。すなわち、碑文はある空間を構成する一要素として、多岐にわたる空間研究の一翼を担いうる史料といえるだろう。
 空間研究に関しては、1970年代より、「空間論的転回」と称される学問的認識の変化が起こり、空間は静的な「モノ」ではなく、社会状況を反映した動的な対象として扱われるようになった。かかる動向を踏まえるならば、碑文のモニュメントとしての性質に着目することは、物的な意味での碑文の特性に限らず、碑文によって形成される空間とそれに関わる社会のあり方を解明することに寄与するのである。
 近年、ギリシア語碑文、とりわけ小アジア出土のギリシア語碑文が、都市ごとに続々と公刊されている。多くの碑文集においては、碑文の内容に基づいて分類がなされ、また、碑文の空間的な情報がほとんど記載されない場合もあり、それゆえ、碑文を空間的に位置づけることに関して、十分な環境が整えられているわけではない。
 かかる制約を念頭に置きつつも、本報告では、個々の碑文の空間情報について最も緻密に整理されている、小アジア都市アフロディシアスを中心に取り上げ、当市における碑文を空間という切り口から検討することを試みる。当市はローマ期に大きく発展したギリシア都市であり、出土している碑文の豊富さなどゆえに、近年、多くの研究者の注目を集めている都市である。具体的には、公共空間としての劇場を一つの素材とし、適宜、他のギリシア都市における事例との比較を交えつつ、劇場という空間形成に碑文がいかなる機能を果たしたか、そして、そこにはいかなる都市社会の現実が反映されているのかを考察し、空間研究という点におけるギリシア語碑文の利用可能性と限界について論じてみたい。



テクストとしての碑文、モノとしての碑文
――ラテン語碑文の場合――

                              大清水 裕(滋賀大学)

 古代ローマ史研究において、ラテン語で刻まれた碑文は重要な史料の一つである。実際、タキトゥスの『年代記』やディオ・カッシウスの『ローマ史』といった文献史料とともに、ラテン語碑文も史料として広く用いられてきた。しかし、史料としての碑文の特色を考えた場合、タキトゥスやディオ・カッシウスといった文献史料とは異なる、碑文独自の史料解釈の可能性が残されているのではないだろうか。
 史料の伝存状況を考えてみよう。文献史料の場合、古代に単一の著者によって執筆されて出版され、中世以降、写本が作成されて、その一部が伝存したケースが多い。その伝存した写本の校訂を経て、テクストが確定されることになる。この場合、古代から現代まで伝わっているのはテクストのみであり、歴史学の主たる関心はテクスト解釈に向かうことになる。
他方、碑文史料は古代地中海世界で広く制作され、現代までそのまま残されたものが多い。テクスト自体は短いものが多く、情報量も限られるとは言え、そのテクストの刻まれた石や金属板自体も残されているケースが少なくないのである。テクストのみが伝存している文献史料と、碑文史料との決定的な相違はこの点にあると言えるだろう。モノとしての碑文である。『ラテン碑文集成(CIL)』をはじめとする史料集でも、技術の進歩に伴い、近年では写真も掲載されることが増え、モノとしてのラテン語碑文を歴史研究に活用する基盤は整いつつある。
モノとしての碑文という側面は、古代ギリシア史ではたびたび言及され、実践されている。それに対し古代ローマ史では、対象とする期間の長さと地域の広大さゆえか、それが広く実践されているとは言い難い。本報告では、テクストとしての碑文だけではなくモノとしての碑文という側面にも着目し、3世紀の北アフリカの事例を中心に、史料としてのラテン語碑文の新たな可能性について検討したい。



Papyrology and Ancient History: Recent Trends and Works (c. 2000-2014)

                   Amin Benaissa(University of Oxford)

At the request of the organisers, this paper will provide a broad survey of recent developments in the historical study of Greek documentary papyri. It will follow a roughly chronological arc from the early Ptolemaic period to Late Antiquity, highlighting selectively (in the manner of a bibliographic essay) some of the most important text editions and historical works from the past fifteen years or so. Time permitting, I will also refer to new online tools available to ancient historians interested in documentary papyrology and the history of Graeco-Roman Egypt.

  
                       (所属などは発表時のものです。)



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